*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
 「それはそうと、そろそろお暇しようか、遥香。」

 健太郎さんが自分の左腕を見ながら遥香さんに声を掛けた。
 彼の腕には大ぶりな時計が嵌めてあって、彼の太くて逞しい腕によく合っている。

 私もつられてリビングの時計に目を遣ると、時刻は九時を回ろうとしていた。

 「やだっ、もうこんな時間なのね。すっかりお喋りに夢中で気付かなかったわ。遅くまでごめんなさいね。」

 「いえ、私もとっても楽しかったです。また来てくださいね。」

 立ち上がってお皿を下げようとしてくれる遥香さんに「そのままで大丈夫ですよ。」と言うと、「でも、片付け大変でしょ?」と申し訳なさそうに言われる。

 「俺がやるから大丈夫だよ。ありがとな、葵。」

 遥香さんを手で制した修平さんが、そう言って立ち上がった。

 「宮野さんは明日仕事なんだろ?これ以上遅くなったら申し訳ないから、今日はお言葉に甘えよう、遥香。」

 「そうね…。申し訳ないけど、今日は甘えさせてもらうわね。次は我が家にも遊びに来てちょうだいね、杏ちゃん。」

 「はい、是非!」

 そのまま立ち上がった二人を玄関まで見送る。

 二人はここまで来る時もタクシーだったらしく、帰りのタクシーを健太郎さんが携帯から呼んでいた。

 玄関で靴を履く遥香さん待ってから、自分もつっかけ代わりのサンダルに足を入れる。
 男性陣はタクシーの到着を待っていると言って、一足先に外に出ていた。

 玄関扉に手を掛けた遥香さんが、「あっ、そうだわ。」と言って振り向く。
 そしてカバンの中から取り出した小さな紙を、私に向かって差し出した。

 「私の連絡先。もし良かったら杏ちゃんの連絡先も教えて貰えるかしら?」

 「はい、もちろんです!あとでここにメールしますね。」

 受け取った名刺の裏には、いったいいつ用意したのか、手書きで電話番号とメールアドレスが書いてある。

 「宜しくね。」

 遥香さんは玄関を開けて足を一歩踏み出しながら、にっこりと微笑む。
 その笑顔が素敵すぎて、女同士だというのについ見惚れてしまう。


 アプローチを二人でゆっくりと進んで門扉から外に出ると、ちょうどタクシーが到着したところだった。
 タクシーに乗り込む二人を修平さんと並んで見送る。

 「今日はお邪魔したな。ありがとう。」

 「つぎはうちにも遊びにきてね。待っているわ。」

 健太郎さんと遥香さんに順にそう言われて、私たちがそれぞれに返事を返すと、タクシーがゆっくりと動き出した。

 タクシーの後姿を見送りながら手を振った。
 その姿が見えなくなってから家の中に入ると、広い家がなんとなく静かに感じた。

 私にとって、にぎやかでとても楽しいひとときをもたらす、初めての来客だった。


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