国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
そんな険悪な様子を、カウラの花は静かに見守っていた。

ひとり残されたレイが花に手を伸ばして触れようとしたその時だった。

「レイ様。よいのですか? あのようなことを言って……」

草の茂みからすっと人影が現れ、月明かりがその姿を照らしだす。

「盗み聞きとは……いい趣味だな、セルゲイ」

「お部屋でお休みになるよう、あれだけ申し上げたのに。どこへおいでかと思えば……それに盗み聞きではありません、たまたまです」

「ふっ……大方、お前もこのカウラの花を拝みにきたのだろう?」

チラリと横目で見ると、図星をさされたセルゲイがへの字口に唇を結んでいる。堅物な男が見せるその様子が滑稽で、レイは小さく鼻を鳴らした。

「あの娘は陛下にとって危険要因です。確かに唄人には価値がありますが、他国からの標的になりかねない。なぜ、そのような者を囲うのですか?」

「黙れ、あの女は私のだ。どうしようと私の勝手だろう。それに、かの者が危険かどうかは私が判断する」

セルゲイの言葉を両断し低く言い放つと、セルゲイは再び口を結んで閉口した――。
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