国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「私が憎いか?」

まるで挑発するような言い草だ。ミリアンは苛立ちに唇をかみしめた。

「殺したいくらい、憎いわ……私はこの手で母の仇を討つまで、あなたを狙い続ける!」

それは自分でも驚くほど低い声だった。そんな声でも美しいと言わんばかりにレイがふっと笑う。

「それでいい。ならば私の隙をついて、いつかここにお前の剣を突き立ててみろ」

ミリアンから取り上げた短剣を懐から取り出すと、レイはそれをミリアンに握らせて鋭く光る切っ先を自分の心臓にあてがった。

「私は逃げも隠れもしない」

唇を寄せ、吐息交じりの声でレイがミリアンにささやく。全身に身の毛がよだち、震える手中に短剣の柄を握りしめた。

(レイ様を……殺す? そんなこと……でも、この人は母の仇)

今度こそ正真正銘、母の仇が目の前にいる。不敵に笑って見下されて、ミリアンの美しい髪が怒りで天に舞い上がるようだった。しかし、彼女にはその心臓を貫くことができなかった。

「失礼します!」

どうすることもできないミリアンは、短剣を手にしたまま地面を蹴って温室から転がるように飛び出した。
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