国王陛下はウブな新妻を甘やかしたい
「やぁっっ!」

幼い頃、かつて腕の立つ剣術士だった村人に護身術を教わっていたことがあった。何があっても自分の身は自分で守らなければならない。その美しいミリアンの容姿から想像もしていなかった行動に出られた男は、一瞬戸惑いの色を見せたが、ひらりひらりとマントを翻しながらミリアンの攻撃を容易に躱していく。

「母の仇!」

怒りで理性を失っていても、ミリアンは無駄に剣を振り回しているわけではなかった。剣を躱すその動きを読んで男が向き直った瞬間、ミリアンは空を切りながら大きく左から右へ剣を振った。

「ッ――! この女……」

今まで余裕を見せていた男がようやく小さく声を発した。と同時にはらりと剣先に切り裂かれたフードが裂けてその男の素顔が現れた。路地の暗闇にさっと月光が射すと、ミリアンを捉えていた双眸と同じ色をした長めの不揃いな黒髪が揺れ、その容姿にミリアンは見上げて息を呑んだ。
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