極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
「神崎さん……」

こうして甘えられるのも今日で最後かと思うと、じんと目の奥が熱くなってきた。

初めて出会ったときの彼は、上司であると同時に成熟した男性で、私の知らないあらゆることを知り尽くした、大人の男だった。

それでいて、私のことをからかう意地悪な表情はあどけなく、たまに見せてくれる笑顔は私の心をとろけさせた。

憧れという名の恋に堕ちるまで、一年とかからなかった。

仕事というオブラートに想いを包み込んでひた隠すこと五年。

今、その恋が、気持ちも告げぬまま、あっさりと終わりを迎えようとしている。

「咲島?」

ベッドの上に私を降ろし、座らせた後、顔を覗き込むように彼がしゃがむ。

真っ暗な部屋の中、玄関のオートライトだけが私の姿を薄っすらと照らし出している。

暗いとはいえ、濡れた瞳の陰影くらいは捉えられたはずだ。
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