極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~
「……なんて顔してんだよ」

彼が迷惑そうに顔をしかめた。ほんの少しだけ、申し訳なさそうにも見えた。

「急にどこかへ行っちゃうなんて……ひどいです」

あまりにも急に降って湧いた、彼の転職話。

噂によると、大きな会社から引き抜かれ、たいそうなキャリアアップをするらしいのだが、おめでとうを言う以前に、置いていかれる私にとってはショック以外のなにものでもなかった。

こんなことを言っても困らせるだけだとわかっているのだが――。

「ずっと手元に置いてくれるって言ってたじゃないですか……」

平社員の私だけれど、昇進の話がなかったわけではない。

部署内の、別チームへ異動する代わりに、主任を任せてくれるというお誘いもあった。

でも、私は断った。主任になるよりも彼の下で働ける方が幸せだったから。

ただ、彼と一緒にいるだけでよかったのに。

残された私は、これから先、なにを目標に頑張ればいいのだろう。
< 9 / 227 >

この作品をシェア

pagetop