だから何ですか?



渦巻いていた感情が一瞬で鎮静する。


いつもそうだ。


不安や憤り、自分ではどうにもならなかった感情を一瞬で収めて宥めるのはそれを向けていた筈の亜豆本人で。


そんなものを抱くだけ無駄で無意味だと毎度教えられているような。


今もそんな鎮静化に苦笑いが浮かんで、残っていた感情のクズは自ら体外に吐きだす様に『はぁ』と息を吐く事で解消。



「・・・仕事・・行ってきます」


「はい、いってらっしゃい」



落ち着いた俺の心情を理解しているらしい姿がにっこりと「行ってらっしゃい」を響かせて、同時に俺のコートのポケットにスッと手を忍ばせてすぐに離れる。



「恋しくなったら食べてください」



その一言で何を入れられたのかは充分に理解し、ポケットに手を突っ込んで今程入れられたばかりのチョコを取り出すと目の前で開封して口に放り込んだ。



「悪い、もうすでに」



そんな補足を口にすればフフッと笑った亜豆にもう行けと言わんばかりにトンっと心地よく押し出されて歩み出した。


いつもとは逆。


亜豆を残して俺が先に入り口に向かって。


ああ、なんか少し分かった気がする。


亜豆がいつもなんで名残惜しさも見せず振り返りもせず去って行くのか。


振り返ったらきっと・・・そのまま離れがたくて戻ってしまうから。


多分・・・そういう事だよな?


そんな確認をしたくとも振り返ったらまさにそうなると思い堪えて扉を開いて中に入った。


亜豆はいつもの俺の感覚を体感しているんだろうか?なんて事を思いながらエレベーターホールまでの短い階段を下り始めた。




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