だから何ですか?
睨みつけたままの感情の吐露であった。
『嫌い』だと、色々複雑な補足なしの単純な一言を口から零してしまって自分が驚いた程なのに。
傷ついてもおかしくないと分かるほどの自分の邪険な響きであったと思う。
だから、言った自分自身がその言葉に怯んで下がる事のなかった熱を一気に凍らせた瞬間だったのに。
『嬉しい』
そんな風に見えた彼女の小さくも緩やかに上がった口の端。
綺麗だと無意識に思って飲まれて固まって、伸びて遠慮がちに服に触れてきた指先にも拒絶はせず。
ほんの軽く、彼女の指先が自分のジャケットを摘まんだ。
そんな些細な刺激が逆に過敏に自分に走り、伏せがちだった彼女の視線が再び上がって視線が絡んだ瞬間。
無気力に下りていた方の手が無意識に動いて彼女の手に伸びる。
それでも、触れるまでいかずにピタリと制止し引っ込めその手を握りしめたのは、
「伊万里さん。居たぁ、もう、部長が探してましたよ」
「・・・・あ・・悪い、」
不意に目が覚めたような感覚。
そんな瞬間に今まで聴覚もおかしかったのか、まったく聞こえていなかった店内の賑やかな騒ぎまでクリアに耳に響き始める。
軽く非難するような口調でこちらを指さし近づいてきたのは小田で、人混みを縫って近づき俺の前に立つ亜豆にも気がつくと『アレ?』なんて声も響かせている。