湖にうつる月~初めての恋はあなたと
横で帳簿の整理をしていた山川さんがデスクに倒れ混んでいる私に声をかけた。

「真琴ちゃん大丈夫?どこに電話かけてたの?」

私は前髪を掻き上げながら状態を起こす。

「京抹茶さんです」

「あら、そんな疲れた顔して何か言われた?」

「もうけんもほろろで・・・・・・。やっぱり私じゃ役不足なんでしょうか」

ふぅと軽く息を吐きながら、お得意リストのページをめくりながらあと3件電話すれば完了だと少し安心する。

「京抹茶は、もともと老舗中の老舗で普通ならこんな小さなお店に卸してくれるようなとこじゃないのよ。何度も頭を下げ頼み込んだお父さんを見込んで卸してもらったってこともあるからねぇ」

「父はよほど信頼されていたんでしょうか。抹茶プリンを作ろうとなると京抹茶さんに断られると厳しいですね。今後のこともあるしなんとか繋げたいですけど」

私はデスクに頬杖をつき、山川さんを見ながら首を横に振った。

「そう・・・・・・困ったわね。他の抹茶を探すとなると私達の力じゃどうしようもないし、それ以前に味が変わってしまうからお父さんも納得しないでしょうね」

山川さんも首をすくめて苦笑した。

どうしよう。このままでは唯一私が父からしっかりと教わった抹茶プリンを生産することができない。

頬杖をついたまま、ぼんやりと店のカウンターに映り込む自分の顔を見つめていた。

その時ふと、澤井さんの言ってた言葉が蘇る。

『固い決意と信用を得る』ことが商売では何よりも大事だという言葉。




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