湖にうつる月~初めての恋はあなたと
新幹線で京抹茶の社長の名刺を取り出す。

『京抹茶 代表取締役社長 壇上博盛』

どんな人なのかも全然知らない。

年配の人なのかそれとも若いのか。以前ならわからないというだけで不安で立ち止まっていたけれど、今はどんな人か想像することも楽しいと思える。

山川さんに言われたように、少し前の私では考えられないことだった。

私はいつの間にか変わったんだ。

今までよりも強くなった。自分一人でもできるかもしれないっていう勇気がわいてくる。

すぐにでも澤井さんの胸に飛び込んでそんな私を褒めてもらいたい。

スマホを取り出す。

LINEの澤井さんのページを広げると、最後にもらった【いつも君のそばにいるよ】という言葉が飛び込んできた。

そうだね。きっと大丈夫。一人じゃない、そう思えて澤井さんのLINEを閉じた。がんばってみよう、誰の力も借りないで成し遂げた時、澤井さんにきちんと報告しよう。私の気持ちと一緒に。


今日は社長と会えるかどうかわからないから、明日はとりあえず仕事は休んだ方がよさそうだ。父の事情を既に知らせていた亜紀にこれから京抹茶に交渉に行くから明日は休ませてほしいとLINEを送った。

【真琴、やるなぁ!今は社長代理だもんね?こちらのことは任せといて!ピンチヒッターで受付に入ってもらう総務の山並さんとなんとかするから 亜紀】

元気な亜紀の声が聞こえてくるような返信にくすっと笑ってしまう。

新幹線の車窓の向こうに目を向けると富士山が見えた。晴れ渡った青い空に美しい富士がゆっくりと近づいてくる。

社長の信用を得るために私に何ができるんだろう。まだその答えはわからないままだったけれど、不思議と不安はなかった。






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