湖にうつる月~初めての恋はあなたと
京都まで遠路はるばる来たのに、滞在時間1時間半。
正直もったいない気もするけれど、今はそんなこと言ってる場合ではなかった。
一刻も早く帰らなくちゃ。
そして、渾身の抹茶プリンを作って明日もう一度社長に会いに行く。
私の抹茶プリンを食べてもらうのが一番私自身をわかってもらえるはずだと気付いた。
だけど、京抹茶の誇れる抹茶が台無しになるようなプリンは決して作れない。
在庫の抹茶を少しも無駄にすることはできない。限りなく一発勝負だった。
店に戻ると午後四時を回っていたけれど、休む間もなく厨房に飛び込む。
「真琴ちゃん、おかえり」
「山川さん、色々ありがとうございました。今から抹茶プリン作って、そのプリンを持ってもう一度社長に会いに行ってきます」
「え?それはまた慌ただしいこと。一体どうしたっていうの?」
「私が作った抹茶プリンを社長に食べてもらうの。じゃないと私という人間を信用してもらえないと思うから」
「真琴ちゃん、いいアイデアね。私も手伝うわ」
山川さんは店内の拭き掃除をしていた手を止めて厨房に入ってきた。
私は父から教わったレシピを元に、息つく暇もなく必死に作る。
こんなにも夢中になって何かに没頭したことがあっただろうか。
最後にプリン容器に濃い緑のプリン液を流し込んでいく。
空気がはいらないようにそっと。なめらかなとろみが静かに容器の底に沈んでいった。
「できあがり。あとは冷やすだけね」
山川さんは笑顔でおでこの汗をぬぐった。
「このプリン、気に入ってくれるかな」
冷蔵庫にプリンを全て入れ終え、その扉を閉めた。
「きっと気に入って下さるわ。お父さんの思いと真琴ちゃんの思い二人分詰まってるから」
「あと山川さんの思いも、ね」
私はそう言って笑うと清々しい気持ちになっていた。結果はまだ出ていないけれどとても満たされた気持ち。
誰かが言ってたっけ。結果よりもその過程が大事なんだって。
「真琴ちゃんお疲れさま。お茶でも入れるわね」
そう言って山川さんが持って来てくれた丸椅子に腰掛けた。
座った途端、自分がずっと立ちっぱなしで足腰が疲れていたことに気付く。一気にお尻に根っこが生えていく感じ。
「山川さん、何か甘いものないかしら?」
「チョコレートがあったと思うんだけど」
と言いながら、山川さんは戸棚を開けた。
「あら、丁度切らしてる。でも、バナナが二本あるけど?」
「バナナで十分」
私は山川さんと一本ずつバナナを分けて頬ばる。
バナナの甘さが体に染み渡る。バナナってこんなに甘くておいしいものだったっけ?
何かに集中している時って感覚が研ぎ澄まされているのか、普段気にも留めないことにふと気付く時がある。
「バナナ抹茶ケーキなんていうのもおいしいかも」
バナナを噛みしめながら山川さんに言ってみる。
「そうねぇ。いいかも。でもあんまり新しいお菓子生み出して売れちゃったらお父さんすねるかもよ」
山川さんはそう言ってバナナにかぶりつきながら笑った。
正直もったいない気もするけれど、今はそんなこと言ってる場合ではなかった。
一刻も早く帰らなくちゃ。
そして、渾身の抹茶プリンを作って明日もう一度社長に会いに行く。
私の抹茶プリンを食べてもらうのが一番私自身をわかってもらえるはずだと気付いた。
だけど、京抹茶の誇れる抹茶が台無しになるようなプリンは決して作れない。
在庫の抹茶を少しも無駄にすることはできない。限りなく一発勝負だった。
店に戻ると午後四時を回っていたけれど、休む間もなく厨房に飛び込む。
「真琴ちゃん、おかえり」
「山川さん、色々ありがとうございました。今から抹茶プリン作って、そのプリンを持ってもう一度社長に会いに行ってきます」
「え?それはまた慌ただしいこと。一体どうしたっていうの?」
「私が作った抹茶プリンを社長に食べてもらうの。じゃないと私という人間を信用してもらえないと思うから」
「真琴ちゃん、いいアイデアね。私も手伝うわ」
山川さんは店内の拭き掃除をしていた手を止めて厨房に入ってきた。
私は父から教わったレシピを元に、息つく暇もなく必死に作る。
こんなにも夢中になって何かに没頭したことがあっただろうか。
最後にプリン容器に濃い緑のプリン液を流し込んでいく。
空気がはいらないようにそっと。なめらかなとろみが静かに容器の底に沈んでいった。
「できあがり。あとは冷やすだけね」
山川さんは笑顔でおでこの汗をぬぐった。
「このプリン、気に入ってくれるかな」
冷蔵庫にプリンを全て入れ終え、その扉を閉めた。
「きっと気に入って下さるわ。お父さんの思いと真琴ちゃんの思い二人分詰まってるから」
「あと山川さんの思いも、ね」
私はそう言って笑うと清々しい気持ちになっていた。結果はまだ出ていないけれどとても満たされた気持ち。
誰かが言ってたっけ。結果よりもその過程が大事なんだって。
「真琴ちゃんお疲れさま。お茶でも入れるわね」
そう言って山川さんが持って来てくれた丸椅子に腰掛けた。
座った途端、自分がずっと立ちっぱなしで足腰が疲れていたことに気付く。一気にお尻に根っこが生えていく感じ。
「山川さん、何か甘いものないかしら?」
「チョコレートがあったと思うんだけど」
と言いながら、山川さんは戸棚を開けた。
「あら、丁度切らしてる。でも、バナナが二本あるけど?」
「バナナで十分」
私は山川さんと一本ずつバナナを分けて頬ばる。
バナナの甘さが体に染み渡る。バナナってこんなに甘くておいしいものだったっけ?
何かに集中している時って感覚が研ぎ澄まされているのか、普段気にも留めないことにふと気付く時がある。
「バナナ抹茶ケーキなんていうのもおいしいかも」
バナナを噛みしめながら山川さんに言ってみる。
「そうねぇ。いいかも。でもあんまり新しいお菓子生み出して売れちゃったらお父さんすねるかもよ」
山川さんはそう言ってバナナにかぶりつきながら笑った。