湖にうつる月~初めての恋はあなたと
受付の女性は私を気の毒そうに見ながらも扉を開ける。

「ありがとうございました」

そういうのが精一杯で、私は首をうなだれたまま部屋を出た。

わざわざここまで来たのに。それだけじゃ誠意は伝わらなかったの?

私の決意と信用はあっさりと社長の微笑みにかわされた。

そう簡単に信じてもらえるなんて思ってた私が馬鹿だったんだろう。

京抹茶をあきらめるか、それとももう一度話を聞いてもらうか。

だけど、このまま会いに行ったって堂々巡りなだけだと思う。今以上の私の思いが伝わらなければ。

駅のホームで電車を待ちながら考える。

澤井さん・・・・・・

どうすれば信用してもらえるんだろう。京抹茶で作った私の抹茶プリンをお店で販売させてもらえるには。

私の抹茶プリン。

私の・・・・・・?

慌ててバッグからスマホを取り出し、山川さんに電話をかけた。

『真琴ちゃん?京抹茶さんとはどうだった?』

「実はあまりうまくいかなくって。あの、そんなことより、今厨房の保管庫に京抹茶の抹茶って在庫ありますか?」

『京抹茶の抹茶の在庫?ちょっと待ってて』

どうか、どうかまだ在庫がありますように!

『お待たせ、今見たらあと袋に三分の一ほど残ってるわ。それがどうかした?』

「よかった!とりあえず今からすぐに帰ります!」

『え?あ、気をつけて!』

山川さんもどうして私がそんなこと尋ねたのかわかっていないようだった。

そう、社長からの信用を得る一番の近道は、きっとこれしかない。

残り少ない抹茶だから、失敗は許されないけれど。
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