湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「すみません、私も言い過ぎました」

目を伏せたまま何かを思い詰めたような表情の澤井さんに思わず小さな声で侘びた。

澤井さんの目が私の方に向けられる。

切れ長の知的な瞳。

この目で見つめられたらきっと誰もが一瞬で心を奪われる。

そして、この彼がどんな人かも知らないまま惹かれていくんだ。

例えどんな悪人であろうと構わないって思うくらいに。

そして、自分とは所詮不釣り合いだったと気付いて彼の元を去って行く。

澤井さんは悪くない。全て好きになってしまった彼女のせい。

彼の元を去っていった彼女さん達の気持ちがわかるような気がした。

「きっと澤井さんの横にずっと並んでいられる女性って相当に素敵な人じゃなきゃ無理なんでしょうね。私みたいに普通の人間じゃとても続かないような気がします」

とても冷静な気持ちで口からこぼれていた。どんなに好きになったって頑張ったって叶わない相手はいる。

それが澤井さんみたいな人なんだろう。

彼の私を見つめる目が一瞬影を落としたように見えた。

「そんなことはない、んだけどな」

彼はそう小さく呟くと、足を組み替えて窓の向こうに目を向けた。

とても孤独で寂しい横顔に、なぜだか私まで切なくなる。

「それはそうと、君はどうして足を怪我したの?」

私のそんな切ない気持ちを一挙両断するかのように、澤井さんは急に笑顔で私の方に向き直った。


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