湖にうつる月~初めての恋はあなたと
澤井さんは顔を上げ、そんな私に気付くと車内で優しく微笑んでくれた。

子どもっぽい私のこと、いつも穏やかな笑顔で包んでくれるのは澤井さんが大人だから。私よりもずっと大人だから。

車に到着すると、彼は中から助手席の扉を開けた。

会えた嬉しさからなのか走ったせいなのか、顔が熱くて少し息が切れたまま私は助手席に滑り込んだ。

「久しぶりだね。元気だった?」

エンジンをかけながら澤井さんは尋ねる。

「はい。元気です。澤井さんは?」

「うん、まぁまぁかな」

「まぁまぁ?」

その返事に少しひっかかった私は彼の横顔を見つめた。

出張が多いと言ってたから疲れているのかな。

「そんなことより、今日は荷物が多いね」

「あ、これ」

膝の上に乗せたクーラーボックスに視線を落とす。

「今日は、父に教えてもらって抹茶プリン作ってきました。あと、ロールケーキと」

「いいね。早く食べたいな」

澤井さんはそう言うと、前を向いたまま口元を緩めた。

「さて、どこ行こうか。真琴は行きたい場所ある?」

私は・・・

澤井さんがいればどこでもよかったけれど、そんなこと言えない。
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