湖にうつる月~初めての恋はあなたと
「じゃ、このまま俺の家に向かう?抹茶プリン食べたいし」
「え?あの高級ホテルですか?」
思わず背筋が伸びる。
2人きりでいられるっていうことがこんなにも嬉しくて自分の胸を熱くするなんて。
熱い抱擁なんていらない。
ただ2人でゆっくり過ごせるだけで幸せな気持ちになれた。
例え澤井さんの中に私への気持ちがなくても。
「とりあえず向かうよ。プリン食べながら今日どうするか考えよう。俺の準備不足でごめん。昨日も夜遅くて帰ったらバタンキューだったんだ」
「忙しいのに、今日はすみません」
「いいんだ、俺が会いたいと思ったから」
会いたいと思ったから?
澤井さんはさらっとそんなことを言った。
私に会いたいと思ってくれたんだ。疲れてるのに。
その言葉は私の申し訳なく思う気持ちをいくらか和らげてくれ、嘘でも嬉しい。
澤井さんはいつも大人な対応で優しいけれど、その余裕は一体どこから生まれるんだろう。
私みたいに毎日余裕のない人間には信じられないことだ。
ホテルに向かう桜並木を車は走り抜ける。
「来週にはこの桜もちらほら咲き始めるだろうね」
まだ固い蕾がついた桜を眺めながら澤井さんは静かに言った。
「お花見行きましょう」
その横顔に思わず身を乗り出していた。
身を乗り出した私を見てくすりと笑うと彼は言った。
「お花見?いつ以来だろう、お花見なんて」
「あまり行かないですか?私は毎年友人や父と行きます。亡くなった母が桜がとても好きで、代わりに見に行ってます」
「俺は、あまりいかないな。桜は」
どことなく寂しそうな目をした澤井さんの長い睫が微かに震える。
「今年は冬が長くて寒かったからきっときれいな花をたくさん咲かせると思いますよ。行きましょう」
今までの私ならきっとそんな寂しそうな目を見たらそんなこと言えなかった。
だけど、時々ふと何か闇を抱えているような澤井さんのために、少しでも力になりたいと思ってしまう。
お花見が力になるかどうかはわからないけれど、美しい桜ははかなさの中に強さを感じる。そのエネルギーを私は毎年もらっているような気がしていたから、きっと澤井さんの陰りにも光を灯してくれるんじゃないかって。
「え?あの高級ホテルですか?」
思わず背筋が伸びる。
2人きりでいられるっていうことがこんなにも嬉しくて自分の胸を熱くするなんて。
熱い抱擁なんていらない。
ただ2人でゆっくり過ごせるだけで幸せな気持ちになれた。
例え澤井さんの中に私への気持ちがなくても。
「とりあえず向かうよ。プリン食べながら今日どうするか考えよう。俺の準備不足でごめん。昨日も夜遅くて帰ったらバタンキューだったんだ」
「忙しいのに、今日はすみません」
「いいんだ、俺が会いたいと思ったから」
会いたいと思ったから?
澤井さんはさらっとそんなことを言った。
私に会いたいと思ってくれたんだ。疲れてるのに。
その言葉は私の申し訳なく思う気持ちをいくらか和らげてくれ、嘘でも嬉しい。
澤井さんはいつも大人な対応で優しいけれど、その余裕は一体どこから生まれるんだろう。
私みたいに毎日余裕のない人間には信じられないことだ。
ホテルに向かう桜並木を車は走り抜ける。
「来週にはこの桜もちらほら咲き始めるだろうね」
まだ固い蕾がついた桜を眺めながら澤井さんは静かに言った。
「お花見行きましょう」
その横顔に思わず身を乗り出していた。
身を乗り出した私を見てくすりと笑うと彼は言った。
「お花見?いつ以来だろう、お花見なんて」
「あまり行かないですか?私は毎年友人や父と行きます。亡くなった母が桜がとても好きで、代わりに見に行ってます」
「俺は、あまりいかないな。桜は」
どことなく寂しそうな目をした澤井さんの長い睫が微かに震える。
「今年は冬が長くて寒かったからきっときれいな花をたくさん咲かせると思いますよ。行きましょう」
今までの私ならきっとそんな寂しそうな目を見たらそんなこと言えなかった。
だけど、時々ふと何か闇を抱えているような澤井さんのために、少しでも力になりたいと思ってしまう。
お花見が力になるかどうかはわからないけれど、美しい桜ははかなさの中に強さを感じる。そのエネルギーを私は毎年もらっているような気がしていたから、きっと澤井さんの陰りにも光を灯してくれるんじゃないかって。