山猫は歌姫をめざす
「もちろん!
あー、良かった。だから僕、響子さん好き~」

言って、薫は響子に抱きつく。はいはい、と、響子は薫の背をなだめるように叩いた。
ふと、薫が声を落とす。

「でも未優……大丈夫かなぁ?」

心配しつつも、おそらく薫にも解っているのだろう。【それ】が未優にとって、必要な経験だということを───。
だから響子は、もう一度その背を、ポンポンと叩く。

「坊っちゃん。“歌姫”に無駄な経験なんて、ありゃしませんよ」

───そして、彼女はまたひとつ、知らないことを知る。



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