山猫は歌姫をめざす

【4】差別される者と未熟な奏者


       4.

「……申し訳ございません。あいにく、満席でして」
「えっ? でも、窓際の席、空いてましたよね?」
「……あちらは、ご予約のお客様の席でして……申し訳ございません」

案内係を兼ねたウェイターが、丁寧に頭を下げる。
未優は困惑した。これでもう、三軒目だ、入店を断わられたのは。
思わず留加を見上げたが、留加は黙って(きびす)を返しただけだった。

しぶしぶ店をあとにした未優の横を、向こうからやって来た中年女性の二人組が通り過ぎる。
話に夢中になっているようで、片方の女性が未優とぶつかった。

「あら、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」

気取って謝られ、内心面白くはなかったが、未優は愛想笑いを返した。
直後、なにげなく未優を見た女性が、眉をひそめた。連れの女性の肩を叩く。

「ちょっと……!」
「え? ……あら、やだ……! こんなところに現れるなんて、汚らわしい……!」
「早く行きましょうよ。おいしい食事も、楽しめなくなるわ」

未優に目を向けた二人の口からでた言葉は、悪意しか感じられなかった。未優は、ようやく気がついた──入店拒否された理由を。

(あたしが、“歌姫”だからだ……)

店内の自動ドアを抜ける時、センサーが入って来た者の識別を行う。
だから、最初の二軒のレストランも、この店も、未優が“歌姫”であることを知り、入店を拒んだのだ。
< 98 / 252 >

この作品をシェア

pagetop