山猫は歌姫をめざす
(差別、されるんだ)

“歌姫”というだけで。それは、“歌姫”が娼婦だからだろう。
……気持ちは、解る。未優にだって、身体を売って稼ぐという行為を、肯定することはできない。
さきほどの女性が「汚らわしい」と感じるのも理解できる。不特定多数の男性を「金」と引き換えに相手にするのだから。

(でも、みんな、好きでやってるわけじゃないのに……)

薫は「生きていくための稼ぐ手段」として、“歌姫”になった者がほとんどだと言っていた。
確かに、好き好んで娼婦をやる者もないだろう。そうすることでしか、生計を立てられない者もいるのだ。それを───。

(気持ちは、解る。でも、それによって人に対する態度や扱いを変えるのは、違うと思う)

「……ごめんね、留加。せっかく食事に付き合ってもらったのに、こんな……」

夜間はライトアップされている噴水近くのベンチ。手にしたハンバーガーをひとくちかじって、未優は溜息をつく。

結局、未優たちは、ファストフード店でバーガーセットを頼み、店内での視線が痛い気がして、近場の公園へと移動したのだった。

「気にしてない」

ホットコーヒーに口をつけ、留加は事もなげに言った。思わず未優は、留加を見上げる。

「でも、あたしが一緒だったから……!」
「門前払いには慣れている。おれは『犬』で、しかも“混血種”だ。“支配領域”以外では、ずっと扱いはひどかった。
……今日は、ましなほうだろう」
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