神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~

《五》尊臣さん、ですか……?

犬朗は手っ取り早く咲耶の疲労回復を望み、咲耶に和彰を呼ぶように助言したが、咲耶はこれを拒否した。

「だって、私の都合でタンタンに“影”に入ってもらって、そのうえ“神力”遣って疲れたからって、そんな自分勝手な理由で和彰を呼べないわよ。
いくらなんでも、ワガママ過ぎない?」

咲耶の言葉に、犬朗は溜息をついた。

「……そいつを旦那が我がままだって受け取るかねぇ?
むしろ、
「なぜ私を呼ばなかった」
とか、絶対零度のアノ低い声で、責められそうだけどな」

ぶるっと身を震わせる犬朗に、咲耶は唇をとがらせる。

「和彰は、私の身に危険が及んだ時はって、言ってたのよ?
でもそれって、“眷属”のみんな誰も側に居なくなっちゃって、絶体絶命って状況に追い込まれない限り、あり得なくない?
そんな状況になるなんて……またあんな想いをするなんて、もう二度と嫌だわ!」

追捕の令が下った時のような──。
と、咲耶は口にはださなかったが、犬朗は咲耶の心境をおもんぱかってか、声を荒らげた咲耶を両前足で制した。

「分かった分かった。
──じゃ、俺は“隠形”でついていくけど、咲耶サマも充分に気をつけてくれよな? あそこ(・・・)は、どうも俺ら“眷属”の力を、そぐ作用が働いてるみたいだからさ」

近づいた“大神社”をあごでしゃくって警告する犬朗に、咲耶もいささか緊張しながらうなずいた。

「……うん。分かってる」

そうして、鳥居の側にいた衛士に声をかけた咲耶だが、前回の時とは違い、今回はすんなりと“大神社”のなかへと通された。
虎次郎が衛士に、話をつけていてくれたようだ。
以前に来た時は夜だったためか、今回の“大神社”内の雰囲気は、咲耶には違って見えた。
人の気配を感じさせない、清浄で静謐(せいひつ)な場所。

(考えてみれば、ここって『神社』なんだもんね)

自分をつつむ感覚に、咲耶は改めて『神の住みか』であることを実感する。

(神様かぁ……。神様って、なんなんだろう……?)

“神現しの宴”の時とは違い、犬朗が足下にいるとはいえ、ひとりで本殿へと向かう咲耶の心中に、そんな思いがよぎる。
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