神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
沙雪の語る当代のハクコ──すなわち和彰の出生について聞き、咲耶は、ああ、と、小さくうなずく。
「和彰は“神獣ノ里”以外で生まれたって、聞いてます。その、先代……和彰のお母さんは、どこで和彰を産んだんでしょうか?」
「それは、誰も知らぬことです。
分かっているのは、当代のハク様が、幼いまま山中をさ迷い、心無い手の者に捕われたこと。
そして、“国司”に献上されるという形で“下総ノ国”にお入りになられたことです。
そののち、異例のことながら“国獣”の地位に“神獣”の御姿のまま就かれ、早く“化身”できるようにと、愁月殿の手に託されたのでございます」
徐々に明かされる和彰の過去。
咲耶は、自分がなんとなく想像していた部分との修正に努めた。
犬朗が、独りごつ。
「……“花婿”は短命だって言われるけど、“下総ノ国”も例外じゃなかったワケか……」
咲耶が目を向けると、犬朗は心得たように話しだす。
「どこの国にもある『言いならわし』ってことさ。俺や犬貴は“甲斐ノ国”の出身なんだけどさ。
そこの歴代の“神獣”サマは、気性の荒い女の神が多くてな。
対になるはずの“花婿”は、“契りの儀”で食い殺されるか、次代の“神獣”を授かる兆しがあったとたん、殺されるかの、どちらかだって話だ」
犬朗の話を継いで、沙雪が言う。
「“下総ノ国”では、逆に男の神様が多く……先代のハク様は、民からも官からも、あまり歓迎されなかったと聞いております。
そして、不運なことに先々代の“対の方”も“神力”を得られずにいたことから、
「この国の『白い神の獣の伴侶』は供物にしかならない」
と、蔑まれることになったのでございます」
馬装の点検をしながら言う沙雪に、咲耶は、“陽ノ元”に来たばかりの頃、吐き捨てるようになじられたことを思いだした。
(そっか……“供物”って、役に立たない人間っていう侮蔑の意味だけじゃなかったんだ……)
おそらくは、民の『希望』の裏返し。
“神力”をもつ“花嫁”や“花婿”を望むあまり、期待に反した『結果』が続いたからこその、失意の表れだったのだ。
「和彰は“神獣ノ里”以外で生まれたって、聞いてます。その、先代……和彰のお母さんは、どこで和彰を産んだんでしょうか?」
「それは、誰も知らぬことです。
分かっているのは、当代のハク様が、幼いまま山中をさ迷い、心無い手の者に捕われたこと。
そして、“国司”に献上されるという形で“下総ノ国”にお入りになられたことです。
そののち、異例のことながら“国獣”の地位に“神獣”の御姿のまま就かれ、早く“化身”できるようにと、愁月殿の手に託されたのでございます」
徐々に明かされる和彰の過去。
咲耶は、自分がなんとなく想像していた部分との修正に努めた。
犬朗が、独りごつ。
「……“花婿”は短命だって言われるけど、“下総ノ国”も例外じゃなかったワケか……」
咲耶が目を向けると、犬朗は心得たように話しだす。
「どこの国にもある『言いならわし』ってことさ。俺や犬貴は“甲斐ノ国”の出身なんだけどさ。
そこの歴代の“神獣”サマは、気性の荒い女の神が多くてな。
対になるはずの“花婿”は、“契りの儀”で食い殺されるか、次代の“神獣”を授かる兆しがあったとたん、殺されるかの、どちらかだって話だ」
犬朗の話を継いで、沙雪が言う。
「“下総ノ国”では、逆に男の神様が多く……先代のハク様は、民からも官からも、あまり歓迎されなかったと聞いております。
そして、不運なことに先々代の“対の方”も“神力”を得られずにいたことから、
「この国の『白い神の獣の伴侶』は供物にしかならない」
と、蔑まれることになったのでございます」
馬装の点検をしながら言う沙雪に、咲耶は、“陽ノ元”に来たばかりの頃、吐き捨てるようになじられたことを思いだした。
(そっか……“供物”って、役に立たない人間っていう侮蔑の意味だけじゃなかったんだ……)
おそらくは、民の『希望』の裏返し。
“神力”をもつ“花嫁”や“花婿”を望むあまり、期待に反した『結果』が続いたからこその、失意の表れだったのだ。