神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「──それで、お前はどうしたいのだ」
黙って咲耶の話を聞いていた和彰が、ぽつりと言った。
「お前は羽衣を手にしたのだろう? 元の世界に帰りたくなったのか」
淡々とした口調で問われ、咲耶は顔を上げた。
まっすぐに咲耶を見る和彰からは、なんの感情も窺えなかった。それが、咲耶を無性にいら立たせる。
「そんな訳ないじゃない! 私は、みんなの……和彰の側に、いたいのにっ」
不安が憤りに形を変え、咲耶の目じりに涙がにじむ。
愁月が明かした真実は、咲耶に「お前は用済みだからこの世界を去れ」と言っていたのも同然だからだ。
その事実が、咲耶を一番に傷つけた。
「いまさらなんなの? “花嫁”の召喚条件を偽っていたから、元の世界に戻らなきゃならないだなんて。
私の気持ちは……どうだっていいって、いうの?」
「違う」
愁月にぶつけるはずの怒りの矛先を、和彰に向けるのは筋違いだ。
それが解っていながら声を荒らげた咲耶に、和彰の冷静な声音が制する。
「師は間違っておられる。私の“花嫁”は、お前しかいない。お前が私に名をくれたのが何よりの“証”だ」
冷たい指先が、咲耶の興奮して熱くなった頬を、なだめるように伝う。
「お前がここにいることに誰の赦しが必要だというのだ。師の言葉も香火彦の取り決めも、関係ない」
言った和彰の両腕が伸びて、咲耶の身を自らに引き寄せる。
「私は、お前の望むことであれば、どんな願いでも叶えてやるつもりだった。
だが……お前が“陽ノ元”を、私の側を離れたいという願いは、叶えたくないと思ってしまった」
耳に落ちる低い声音は揺れて震え、和彰自身、自分の気持ちにとまどっているのが分かった。
「お前の願いを叶えるのが、私の『理』であるのに」
──咲耶が真に望むのであれば例え間違った願いでも叶えると、ためらいなく言ってのけた、いつかの和彰。
「私の気持ちは……願いは、和彰の側にいることだよ? 元の世界に、帰ることじゃない」
和彰の腕のなかで、咲耶は甘えるように先ほどの言葉を繰り返した。
黙って咲耶の話を聞いていた和彰が、ぽつりと言った。
「お前は羽衣を手にしたのだろう? 元の世界に帰りたくなったのか」
淡々とした口調で問われ、咲耶は顔を上げた。
まっすぐに咲耶を見る和彰からは、なんの感情も窺えなかった。それが、咲耶を無性にいら立たせる。
「そんな訳ないじゃない! 私は、みんなの……和彰の側に、いたいのにっ」
不安が憤りに形を変え、咲耶の目じりに涙がにじむ。
愁月が明かした真実は、咲耶に「お前は用済みだからこの世界を去れ」と言っていたのも同然だからだ。
その事実が、咲耶を一番に傷つけた。
「いまさらなんなの? “花嫁”の召喚条件を偽っていたから、元の世界に戻らなきゃならないだなんて。
私の気持ちは……どうだっていいって、いうの?」
「違う」
愁月にぶつけるはずの怒りの矛先を、和彰に向けるのは筋違いだ。
それが解っていながら声を荒らげた咲耶に、和彰の冷静な声音が制する。
「師は間違っておられる。私の“花嫁”は、お前しかいない。お前が私に名をくれたのが何よりの“証”だ」
冷たい指先が、咲耶の興奮して熱くなった頬を、なだめるように伝う。
「お前がここにいることに誰の赦しが必要だというのだ。師の言葉も香火彦の取り決めも、関係ない」
言った和彰の両腕が伸びて、咲耶の身を自らに引き寄せる。
「私は、お前の望むことであれば、どんな願いでも叶えてやるつもりだった。
だが……お前が“陽ノ元”を、私の側を離れたいという願いは、叶えたくないと思ってしまった」
耳に落ちる低い声音は揺れて震え、和彰自身、自分の気持ちにとまどっているのが分かった。
「お前の願いを叶えるのが、私の『理』であるのに」
──咲耶が真に望むのであれば例え間違った願いでも叶えると、ためらいなく言ってのけた、いつかの和彰。
「私の気持ちは……願いは、和彰の側にいることだよ? 元の世界に、帰ることじゃない」
和彰の腕のなかで、咲耶は甘えるように先ほどの言葉を繰り返した。