神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
理由は簡単だ。

万が一、霜月にだまされていたとしても、咲耶に恋愛感情はなかったと、誘われたから行っていただけだと、言い訳がつくようにしたかったのだ。

ちっぽけなプライドを守るために。十人並みの顔の女が、勘違いしたと馬鹿にされないために。

(だから私に『そんな気持ち』はないって、言い聞かせてた)

自分で自分をごまかしていた。けれども──。
思い返せば返すほど、霜月から向けられた想いには、偽りの欠片も見つけられなかった。

(人を信じるっていうのは、相手の行いを見極め、それでも心を寄せたいと願うこと)

……誰の言葉だろうか? 以前、何かの本で読んだものだろうか?
分からないが、いまはその言葉を実践したいと思い、咲耶は携帯電話を取り上げた。

結婚報告のあった友人へのメッセージと、もう一通のメッセージを書くために。





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