神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
(みたいじゃなくて、ひょっとして私、監禁されてんの……?)
どうあっても開かない戸は、外側から鍵がかかっているとしか思えない。
咲耶は仕方なく、その場に腰を下ろした。
ややして、布の載った漆塗りの盆を手に、男が戻ってきた。
「よびてきたりしハクコのついなるは、これここにあらんとす。ちぎりしものをほっするわがみにおりてたまわらんことを。
カイジョウ」
すらすらと、咲耶には意味の通じない文言を言い連ね、男はなんなく戸を開けた。
呆然としている咲耶の前に、持っていた盆を置く。
「着替えたら、声をかけろ」
「えっ。……あの。……なんでか、訊いてもいいですか? だって私、わけ分かんないし──」
「必要だからだ。早くしろ。刻限までに、時がない」
取りつく島もなく言いきられ、咲耶は二の句が継げなくなった。
しかし、これは咲耶の悪癖だろうが、高圧的な態度をとられると、つい、従ってしまうのだ……。
渡された『着替え』は、着物一式だった。
が、咲耶の知っているそれと、微妙に違っている気が、しないでもなかった。
下着にあたる襦袢はともかく、その上に着るのだろう物は、飾り気もない白無垢。
飾り帯のようなものはなく、ただ着物をはだけさせないための細い帯も、やはり白い。
唯一、一番上に羽織るのであろう打ち掛けに、白地に竹を思わす図案が金の刺しゅうで施されていた。
(着物専用のブラとかショーツ……は、ない、よね……?)
下着の線が出てしまう問題よりもここで下着まで脱ぐこと自体に、かなりの抵抗を覚える。
咲耶は、下着は身につけたまま、それらに着替えた。
「──終えたか。では、ついて来い」
今度は、なんの抵抗もなく開いた戸を不思議に思ったものの、外で待っていた男に、ためらいながら声をかける。
「あの……ええと。私、松元咲耶っていいます。それで、あなたは?」
「……私に名はない」
予想しなかった返答に驚き、咲耶はしどろもどろになった。
「え? 名前がないって……え?
あの……じゃ、みんなは……えーと、あなたの周りの人は、あなたのことを、なんて呼んでいるの?」
「私を呼ぶ者など、たかが知れている。それは……名ではないのだ」
どうあっても開かない戸は、外側から鍵がかかっているとしか思えない。
咲耶は仕方なく、その場に腰を下ろした。
ややして、布の載った漆塗りの盆を手に、男が戻ってきた。
「よびてきたりしハクコのついなるは、これここにあらんとす。ちぎりしものをほっするわがみにおりてたまわらんことを。
カイジョウ」
すらすらと、咲耶には意味の通じない文言を言い連ね、男はなんなく戸を開けた。
呆然としている咲耶の前に、持っていた盆を置く。
「着替えたら、声をかけろ」
「えっ。……あの。……なんでか、訊いてもいいですか? だって私、わけ分かんないし──」
「必要だからだ。早くしろ。刻限までに、時がない」
取りつく島もなく言いきられ、咲耶は二の句が継げなくなった。
しかし、これは咲耶の悪癖だろうが、高圧的な態度をとられると、つい、従ってしまうのだ……。
渡された『着替え』は、着物一式だった。
が、咲耶の知っているそれと、微妙に違っている気が、しないでもなかった。
下着にあたる襦袢はともかく、その上に着るのだろう物は、飾り気もない白無垢。
飾り帯のようなものはなく、ただ着物をはだけさせないための細い帯も、やはり白い。
唯一、一番上に羽織るのであろう打ち掛けに、白地に竹を思わす図案が金の刺しゅうで施されていた。
(着物専用のブラとかショーツ……は、ない、よね……?)
下着の線が出てしまう問題よりもここで下着まで脱ぐこと自体に、かなりの抵抗を覚える。
咲耶は、下着は身につけたまま、それらに着替えた。
「──終えたか。では、ついて来い」
今度は、なんの抵抗もなく開いた戸を不思議に思ったものの、外で待っていた男に、ためらいながら声をかける。
「あの……ええと。私、松元咲耶っていいます。それで、あなたは?」
「……私に名はない」
予想しなかった返答に驚き、咲耶はしどろもどろになった。
「え? 名前がないって……え?
あの……じゃ、みんなは……えーと、あなたの周りの人は、あなたのことを、なんて呼んでいるの?」
「私を呼ぶ者など、たかが知れている。それは……名ではないのだ」