アシンメトリー
その日、私は胸元に造花をつけて、列の真ん中にいた。
想像していた本当のあの人との別れの日がやってきた。
あの人をずっと避け続け、自分の気持ちから逃げ続けた日々の中で時間は流れていた。
そして、今日が終われば私はあの人と二度と会わなくなる。
マイクスタンドの前で、自分のクラスの生徒の名前を一人一人読みあげるあの人の姿に久しぶりに視線を向けた時、私の頭の中で走馬灯の様に今までのあの人の姿が駆け巡った。
その瞬間、自然に胸に熱いものがこみ上げてくるのがわかった。
そして、私の目には涙が溜まっていた。

張り裂けそうなほど痛い胸の奥で、私は実感したのだ。
本当の「好き」だという感情の意味を。

この時間が終われば、もう二度とこんな気持ちがなくなる嬉しさではなく、何もできなかった自分に後悔した。

傷つく事ばかりを考え、本当の自分の気持ちを押し殺した。

式が終わり、写真を撮る集団の中に笑顔のあの人を見つけた時、聴いたことがない速度で心臓が脈だった。
そして、震えだした手と足があの人の方向へ一歩前に出た私は、その時、勇気を振り絞ってあの人の名前を呼ぼうとした。

「かおる!一緒に写真撮ろうや?」

「うん…」

友達に掴まれた腕に引っ張られ、あの人の姿が遠くなっていく。

その時、私は思った。

今更、勇気を出しても、私には無理だったんだ。

あの人と私は、この先もきっと交わる事のない道を歩いていくんだろう。

そして、いつかは忘れてしまうんだろう。

長い夢が終わって、本当の現実に目覚める。

私の視界からあの人がいなくなった時、私の自分の気持ちから逃げ続けた初恋は終わったのだ。







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