愛してるからこそ手放す恋もある

入院翌日から小野田さんの食事が出されることになった。

「小野田さん、食事が来ましたよ?」

食事と言っても、今までほとんど食べていなかった小野田さんの食事は三分粥からだった。いきなり形のある物や、かたい食べ物では、胃や腸に負担がかかる。そのため徐々に慣らしていくことが必要なのだ。
いわゆる赤ちゃんと同じでお乳だけ飲んでいた赤ちゃんにいきなり固形物を食べさせたりしない。トロトロから形のある物へと徐々に進めていく。

「いらん!誰が作ったか分からんもの食えるか!!」

「そうですよね?誰が作ったか分かりませんものね?」

「え?」

私の言葉にアホ面を見せる小野田さん。
きっと"食べろ"と言われると思っていたのだろう。

「入院が延びるだけですから私は全然構いませんよ?なんならずーと入院してたらどうですか?小野田さんの代わりなら、別のだれかが送り込まれるでしょうから!?」

「っ!食えば良いんだろ!?食えば!」

「あっちょっと待ってください!汚れますからこれを!」

そう言って私の甥っ子が使っていた、くまさん柄の食事用エプロンを首に掛けてあげた。

「あら、可愛い!」

大人の小野田さんが着けると、まるでヨダレかけを着けてる様だった。

「はい!どうぞ」と、スプーンでお粥を口へ運ぶと「自分で食べれる!」と怒られてしまった。

「手が使えないのにどうやって食べるんですか?」

「この手錠外せ!」

「無理です。鍵は由美さんから貰ってませんもん!だから私が食べさせて上げます」

「はーい浩司君。大きなお口開けてください。ちゃんとモグモグしないとダメでちゅよ?」

「梨華、おまえ楽しんでるだろ!?」

「ウフフ…昨日のお返しですよ!」

小野田さんは仕方なく口を開けたが、耳まで赤くなっていた。

そして「くそまずっ」と顔を歪めた。

そりゃーお粥なんて美味しいものじゃない。
私も経験したからよく知ってる。
仕方ない。後で売店に行って梅干しでも買ってきてあげよう。




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