愛してるからこそ手放す恋もある
廊下に出ると、さっきの彼女が男に呼び止められた。
「佐伯さん?」
「はい?」
「今夜どうかな?」
「今夜ですか?19時30分なら大丈夫です」
「じゃ、19時30分に?楽しみにしてる!」
「はい、私も楽しみにしてます」
彼氏か?…
でもあの話し方なら、
まだ、深い関係じゃないな?
そして、今度はエレベーターから降りてきた男と…
「やぁ?佐伯さん、今夜5時30分で大丈夫だよね?」
「はい!」
「楽しみにしてるよ?」
「はい、私も楽しみにしてます」と彼女は言ってエレベーターに乗り込んで行った。
良い女だと思ったが、社内で二股とは随分だな?
「何だあの女、同じ日にふたりの男とデートするとは大した悪女だな?」
俺の呟きに耀一から彼女を擁護する言葉が聞こえた。
「彼女はそんな女じゃないよ?」
「へぇー女房、子供を愛してる様な事を言っときながら、耀一もあの女に惑わされてる口か?」
「彼女は彼らとデートするんじゃないよ?彼らは彼女のお兄さんが経営するレストランの予約を入れてるんだ。お兄さんのお店は人気でね、なかなか予約が取れないんだよ!」
「だけど、楽しみにしてるって…」
「うん。彼女、お兄さんのお店のバーカウンターでバーテンの手伝いをしてるんだ。取引先にも評判がいいんだよ?」
「手伝いね…」
「佐伯さんに興味もった?でも彼女はその辺の女性と違って金や地位には興味はないから、落とすには苦労すると思うよ?それに、俺の大事な部下だからね?遊びならやめといてくれよ?」
「同じ会社の人間に、手を出したりしない」
揉めて訴えられても面倒だからな?一通り社内を見て周り耀一が用意してくれたマンションへ送ってもらった。