副社長は花嫁教育にご執心
「……うそ。美味しいんですけど」
「だから言っただろ。やってみたらそんなに難しくないんだって」
灯也さんオリジナルらしい調味料の配合で作った生姜焼きは、びっくりするほど美味しかった。
分量さえちゃんとすれば、炒め方は適当でよかったし、これなら私にもできそうだ。
「毎日これでいいですか?」
「なんでそういう発想になるんだ。まだまだ教えることはあるんだから、毎日ちょっとずつ練習しよう。まつりが料理に慣れてきたら色々アレンジだってできるようになるし、料理が楽しくなるはずだから」
呆れながらも励ましてくれる彼に、私は自信のない返事をする。
「……そうでしょうか」
「たぶんな。それとも、今日やってみてやっぱり苦痛だったか?」
灯也さんに顔を覗かれ、首を横に振った。
苦痛どころか、楽しかった。ときどき背中に回って包丁の持ち方などを指導する彼にはドキドキしたけど、ふたりで協力して家事をしていると、なんだか夫婦らしくなった気もした。
「灯也さんに教えてもらえるなら、頑張れそうな気がします」
「お、いい心がけ。ま、今夜は慣れないことして疲れただろうし、食べたら風呂入ってすぐに休めよ」
「灯也さんは?」
「ちょっと片付けたい仕事がある。終わったら、すぐに寝るよ。起こしたらごめんな」
「い、いえっ。それは全然構わないんですけど」