副社長は花嫁教育にご執心

すれ違いと誤解



翌朝、私より遅くに帰ってきたはずの灯也さんなのに、私より先に起きてすっかり出勤準備を済ませていた。

ダイニングテーブルにはふたりぶんの朝食も並んでいて、私はゆうべ泣いたせいもあって重たいまぶたをこすりながら、彼の向かいの席に着いた。

「灯也さん、いつもより早く出るんですか?」

バターもつけず、急いだ様子でトーストを齧る彼に問いかける。

ゆうべ話せなかった例の嫌がらせのこと、朝にでも話せたら……と思っていたのだけど。

「ああ。昨夜、本社から帰ろうとしたらスパの方から連絡あって、なんか岩盤浴のシステムがトラブってるらしいんだ。本来現場の奴らでどうにかなる案件だと思うんだけど、“支配人が来てくださると心強いのですが”とか泣きつかれちゃって」

灯也さんは嫌々ながらも、頼られるのはうれしい様子だ。

そういう事情なら、無理して引き留めて私の話聞いてもらうわけにもいかないよね……。

「そっか。頼られてる証拠ですね。頑張ってください」

「まつりは、大丈夫か? ……なんか疲れた顔してるけど」

起きてすぐに冷たい水で顔を洗ったけれど、まだひどい顔をしているらしい。でも、気づかれているならちょうどいい。話を切り出すチャンスかもしれない。


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