副社長は花嫁教育にご執心


胸の中が、次第に疑念にまみれていく。

こんなことなら、きちんと朝まつりの話を聞いておくんだったな……しかし、今は仕事中だ。余計なことは考えていられない。

俺はなんとか気持ちを切り替えようと俺はデスクから立ち上がった。

「妻のこと、教えてくださってありがとうございます。しかし、あとは夫婦の問題なので、仕事にお戻りください」

藤田久美は心苦しそうな顔でぺこりと頭を下げ、くるりと踵を返す。

しかし、扉の前まできたところで、急に振り返ったかと思うとこう言った。

「あと、ひとつだけ……」

「ひとつ? なんですか?」

「はい。私が支配人に話してしまうなんて、まつりちゃんはきっと思ってなかったとおもうんですけど、私、言わないでいることなんてできません」

「……前置きはいいから、手短に」

つい、苛立ちの滲んだ声を上げてしまい、藤田久美の肩がびくりと震えた。

そして、少し視線を泳がせた後、彼女は俺にこう告げたのだ。

「今日……まつりちゃん、本来出勤なのにお休みしてて。たぶん、彼と会っているんじゃないかと思います」

言いたかったのはそれだけです。と最後に残し、今度こそ藤田久美は支配人室を出て行った。


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