副社長は花嫁教育にご執心
俺の心に、またひとつ新しい疑念が湧き、それが泥のように心を黒く覆ってしまう。
なんで……まつりが今日が休みだなんて、俺は聞いていない。夫婦で同じ職場なのに、そんなことってあり得るか?
まさか、本当に藤田久美の言うようなことが……?
……ダメだ。真実を確認するまで、平常心で仕事なんかできない。
俺は内線に手を伸ばし、副支配人の小柳を呼び出した。
すぐに支配人室へときてくれた小柳に、ちょっと自宅に忘れ物をしたからその間のことを頼む、と適当な嘘をついた。
具合の悪いまつりが自宅にいて、実は仕事を休んだのだと本人の口から聞ければ、俺も納得できる。そう思ったのだ。
「設楽、ひどい顔だぞ。まつりさんと何かあったんだろ」
しかし、小柳は思っていたより鋭く、怪訝そうな顔で確信をつかれてしまう。
「あー……わかるか?」
「そんな情けない顔を見ればな。お前がそんな落ち込んだ顔する理由に、彼女のこと以外ないだろう」
「俺ってそんな風に見えるのか」
「ああ見える。昔、好きだった杏奈が結婚するって聞いたときはわりとすんなり諦めたくせに、まつりさんのことになるとすぐ顔色が変わる」