副社長は花嫁教育にご執心
――しかし。
「設楽。俺は回りくどい事を言うのが好きじゃないからハッキリ言うぞ」
期待通りだったのは、彼のポーカーフェイスだけ。その口から出た言葉は、俺の感情を今度こそ真っ黒に塗りつぶした。
「彼女は黒だ。よりによって自宅に男を連れ込んでいた」
まさか、そんな……。
「会ったのか? そいつと……」
「いや、玄関で靴を見ただけだ。しかしまつりさんの慌てようには、かなり後ろめたさがあった。俺がこうして設楽に報告するのを怖れていたんだろうな」
……なんで。俺の知るまつりは、そんな卑怯な女じゃないのに。
別れたいのなら、堂々と言えばいいじゃないか。それを俺が許せるかどうかは別だけど……。
いやむしろ、俺のこういう嫉妬深いところをまつりは知っていたから、別れを告げられずにコソコソ男と会うような真似を……?
それから仕事を終えるまでのことは、よく覚えていない。
感情を殺し、淡々とやるべき仕事だけこなした後。気が付いたら家とは反対方向のバーに来て酒を飲んでいた。
間接照明の明かりがぼんやりカウンターバックに並んだ洋酒の瓶を照らし、ごく小さな音量でジャズの流れる静かで落ち着いた店だ。