副社長は花嫁教育にご執心


「む、夢中でしたから、そんな、“できるようになった”という感じじゃ……」

「“離婚するのが最善。でもそれでいいのか――”ってずっと葛藤してたのとか、あれで全部飛んでった。俺にまつりを手放せるわけなんかないって、あの時に自覚した。まつりが、正直な自分の気持ち、ぶつけてくれたから」

「灯也さん……」

「だから……今度は、俺から、気持ち伝えさせて?」

淀みないまっすぐな視線を向けられ、心臓がとくん、と優しい音を立てて揺れる。

私は返事をする代わりに目を閉じて、大好きな灯也さんの香りが近づいてくるのを感じて胸を高鳴らせた。

やがて、柔らかな彼の唇と、私のそれが重なった。触れ合う部分から伝わってくるぬくもりに、心まで熱くなる。

キスの合間にほんのり鼻腔をくすぐるのウイスキーの香りに、さっき窓際で目を赤くしていた彼を思い出し、胸がぎゅうっとした。

彼は否定するかもしれないけど、あの一瞬、やっぱり彼の目には涙が浮かんでいたんじゃないかと思うのだ。

そんな切なさも、それにあふれる愛しさも。彼が胸に溶かしこんでいるたくさんの感情が、キスを通して私の中に流れ込む。

灯也さんの真摯な気持ちが、全部全部、伝わってきます――。


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