副社長は花嫁教育にご執心


胸にしみじみ感じる幸せの理由は、単純に、今まで知らなかった彼の気持ちが知れたことのほかに、天国の両親への思いもあった。

灯也さんが私に惹かれるきっかけになった“笑顔”は、ほかでもない彼らがくれたものだから。

「灯也さん。私の名前、ちょっと変わってるなって思いません?」

「“まつり”か? そうだな、同じ名前の人には一度も会ったことがない」

「ちょっと珍しい名前ですけど、私は気に入ってるんです。両親が、素敵な由来のもとに決めてくれたから」

「へえ。その由来、教えてくれよ」

「もちろんです」

私は頷いて、幼い頃両親に何度も言い聞かされた話を灯也さんにしてあげた。

私の名前、まつりは漢字にするなら“祭”。自分の周りを取り巻く人、モノ、それらに宿る神様。すべてに感謝して日々を過ごしてほしいという願いが込められているってことがまずひとつ。

それに加えて、現代の人が思い描くお祭りの華やかさのイメージから、こうも言われた。

なんてことない日常も、自分の気持ちひとつで、お祭りのような楽しい一日に変えることができる。

だから、毎日がお祭りになるように、いつも笑顔で過ごしなさい、と――。


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