副社長は花嫁教育にご執心
「でもさ、まつりって化粧っ気ないだろ? だから、大学生か、あるいは高校生のバイトかもしれないと思い込んでて、あんまり深入りしないようにって、自分に言い聞かせてた。椿庵のほかの従業員に聞けば学生じゃないことはわかっただろうけど、支配人という立場もあるしどうも後ろめたさが邪魔して、なかなか聞けなくてな」
「……な、なるほど。もしかして、だから“二十五歳”と聞いた時に、食いついたわけですか」
「そうだよ。口説いていい対象だとわかって、内心ガッツポーズ」
と、灯也さん、かわいい……。年上だけどたまにそういう少年ぽさが垣間見えると、私はいつもきゅんとなる。
それから脳裏に思い起こすのは、初めて灯也さんと言葉を交わした、【Crystal Ocean】のロビーでのやりとりだ。
それまでクールな素振りだった灯也さんなのに、私の年齢を知るなり態度を変えて立て続けにこう言っていた。
『ふうん……いいな、お前。気に入った』
『よし、俺が育ててやろう』
『まつり、か。いい名前だな。設楽まつりになっても、語呂がいい』
あの時、彼の態度が変わったきっかけが今の今までわからなかったけれど、そういうことだったんだ。
同じくその時に言われた“お前を愛する自信がある”という一見根拠のなさそうな発言も、彼がもともと私に好意を抱いていたから――。