副社長は花嫁教育にご執心


その後、短い会話をいくつか交わし、電話を終えた灯也さん。改めて私を見つめる表情は明るく、結婚を反対された様子はなさそうだ。

「今度、久々に帰ってくるみたいだ。その時に食事でもしようって。まつり、時間作れるか?」

「も、もちろんです! ……よかった、反対とかされなかったんですね」

「あの自由人が反対なんかしないよ。思った通り、籍も勝手に入れて構わないって。式のことはゆっくり考えるとして、まつりのところは親御さんがいないし、堅苦しい結納とかはナシの方がいいだろ。っていうか、俺がその方がいい。昔からの慣習とかくだらないって思う方だから」

「灯也さんらしい」

思わずクスッと笑ってしまった。きっと灯也さんも、“自由人”なお父様の血を引いているんだろうなって、微笑ましくて。

「というわけで、さっそく書けるとこだけ書いとくか、これ」

「はいっ」

緊張しながら自分の名前を書く。隣には、灯也さんの名前が並ぶ。

学生時代のくせが抜けずに丸文字気味の私とは対照的に、男らしく角ばった、美しい文字でしっかり自分の名前を書いた灯也さん。

私、本当にこの人と夫婦になるんだな……。

一生に一度の、大切なふたりぶんの署名。そう思うと、いつまで眺めていても飽きなかった。


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