副社長は花嫁教育にご執心


いくら待っても、支配人はなかなか口を開かなかった。沈黙に耐えられなくなった私は、さっきから気になってはいたものの、聞けずにいたことを尋ねてみる。

「あのう、ちなみになんですけど……し、支配人って、見たんですよね?」

「見たって、何を」

「わ、私の……その……はだ……」

うう、裸と口にするのがこんなに恥ずかしいものだとは。

でも仕方がないじゃない。私は生まれてこの方、家族以外の男性に裸を見られたことが一度もないのだ。

別に体形に自信があるわけじゃないし、お手入れも適当だけど、やっぱり年頃の女子だし、成人男性に見られていい気分はしない。

「ああ……まぁ湯気でハッキリとではないし、見たくもなかったけど」

しかし支配人の方は、私の乙女心をへし折るような、冷めた調子で言う。

「そ、そんな言い方しなくたって! 私だっていちおう二十五歳の女盛りですよ!? 自分で言うのもなんだけど、椿庵に来てくれるお客様の中の、特に高齢者からは大人気なんですから!」

「二十五……?」

そこで、支配人はなぜか疑いの眼差しを私に向けた。

な、なによ。じろじろ見ないでよ。


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