副社長は花嫁教育にご執心
「ふうん……いいな、お前。気に入った」
「は?」
さっきまで怒っているか不機嫌か、とにかく難しい顔ばかり見せられていたのに、突然口元を緩め私を舐めるように観察しはじめる支配人が不気味で、一歩身を引く。すると、彼はおもむろに話し出す。
「見たところ、頭のてっぺんからつま先までお前の女子力は最低だ」
「なっ! なんて失礼な!」
支配人の発言に憤慨しつつも、図星なので心にぐっさり来ていた。
さっきは己のプライドを保つため、さも武勇伝のように語った高齢者人気の話だけど、あれには裏がある。
飾り気がなく、あまりメイクもしない私がまるで十代の素朴な学生にでも見えるらしく、“孫みたい”という意味で好かれているらしい。
つまり、年相応の女としての魅力という面では、むしろマイナスなのだ。
「よし、俺が育ててやろう」
「え……育てるって……」
「タイルの補修を台無しにした責任、取らせてやる。俺の嫁になることでな」
よ……嫁……? 何を言っているんだこの人。
私は宇宙人と会話しているような気分で、呆然とする。
「そうだ、お前、名前は?」
「野々原……まつりです、けど」
「まつり、か。いい名前だな。設楽まつりになっても、語呂がいい」
ひとり満足げに頷く支配人だけど、展開の早さに私は全くついていけない。