副社長は花嫁教育にご執心
第四章
旅行の始まり
「その電話の相手とヨリを戻すんじゃないかって?」
「……だったらいやだなって」
三日後の夜、婚姻届を弟の遊太にも記入してもらうべく、実家に帰ってきた私。
灯也さんのマンションにはないコタツで背中を丸め、私は遊太に杏奈さんの件を相談していた。
「相手の気持ちはともかく、設楽さんは過去は過去として割り切ってるんじゃないのかな。俺は一度しか会ったことないけど悪い印象はないし、不誠実なことするとは思えないけど」
「そうだよね……私も、そのことはよくわかってるはずなんだけど」
遊太は至極まっとうなことを言っていると思う。しかし、今の私にはそれが信じられない。
私ははぁ、とため息をついて、こたつテーブルに突っ伏しごつんと額をくっつけた。
「もう籍入れる寸前だって言うのにそんなに不安になってるってことは、姉さんってもしかしてまだ設楽さんとしてないの?」
「うっ……」
みかんの皮をむきながら図星をついてくる弟に、私はうめき声をあげた。
弟よ……なぜにきみはそんなに鋭いのか。肯定せずとも私の反応で察したらしい遊太は、気の毒そうに眉を下げて笑う。