夜の帳
「ありがとごじゃいました。」


それとわかる奇妙なイント


ネーションに見送られ


店を出たのは4時前だった。


八事までの下り坂をフラ


フラとした足取りで鼻歌


混じりに気持ちよさそう


に歩く女の後姿を眺めな


がら煙草をくゆらし


のんびりと着いていく。


爽やかな風がシャツの


袖口を擽る、


その心地よさが


背中を這い昇り、


醒めかけた体を


身震いさせた。


八事日赤の手前で、


一歩先を歩いていた女が


にこやかな笑顔で


こちらを振り向き


立ち止まった。


薄明かりと酔いのせいで


その笑顔は、あの頃の面影と


重なった様な気がした。


微笑んでいる自分に


照れながら、


女の横を通り過ぎる。


追い越し様に、


女は、腕組み頭を寄せこちら


を見上げると呟いた。


「今から、うちにいりゃぁ。」


初夏の夜明け前、


東の空がほのかに明るい、


夜の帳は間もなく


開けようとしていた。

       
 
      了

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