暴君と魔女







「最近、仕事の実績がいいな望」


「ありがとうございます」




珍しく笑みを浮かべた男に形ばかりに口元に弧を描く。


この男は富や名声によってしか笑みを浮かべないな。とどこかで思い、今更落胆するでもなくそう言う人間なのだと見切りをつける。


目の前で珍しく賛辞を述べたのは実の父である元大道寺のトップ。


父と言っても父親らしい事なんて一つもされた事が無いが。


いつだって上質なスーツに身を包み、厳格なイメージを崩した事のない姿。


それに称賛もするが呆れもする。


この男にあるのは富と名声。


ただそれだけ。


本来人が持ち合わせる愛情やそれによる執着の欠陥した人間。


だから・・・・母が死んだ時でさえ悲しむ姿は見なかった。


きっと、母を本当に愛していたことなどなくて、ただ子供を産む道具が必要で、セックスなんかも子供を得るための仕事の一環に過ぎなかったのだと思う。


そうして産まれた子供がまともな愛を得て育つ筈もなく。


成長した俺がまともな愛を持ち合わせる事もない。


だけど・・・・そんな俺が心を揺らした2人の女。




姉として愛を注いでくれた女。


相容れない男の妻になった女。




どちらも手に入る事のない女。




結局・・・・俺はまともな愛を得る事の出来ない男なのだとその身で知った。


だから上辺のそれで欲を満たす。


ありがたい事に自分を取り巻く財力や地位、この容姿で欲した時にはその快楽を得るための女はすぐに手に入る。


本当の愛なんて知らないし・・・・知りたいとも思わない。


だけども思いだす自分と類似するあの男。





なぜ、あいつにはそれが手に入って俺には無い?




< 16 / 207 >

この作品をシェア

pagetop