【完】キミさえいれば、なにもいらない。
まっすぐな目でそう言われて、なんて返していいのかわからず、黙り込む私。


正直なところ、今になってこんなふうに謝られても複雑な気持ちだ。


でも、彼のことを今でも完全に憎み切れないのは、どうしてなんだろう。


やっぱり、一度は好きになった人だから……?


「雪菜には幸せになってほしいって思ってるんだよ、俺」


先輩がそう言って、私の耳元の髪をそっとすくい上げる。


そして、急に真面目な顔でこう言った。


「だから、一つだけ忠告しておくけど、あいつだけはやめておいたほうがいい」


「えっ……」


あいつ?


戸惑いを隠せないでいる私の耳元に、陸斗先輩がそっと顔を近づけてくる。


「あの、一ノ瀬彼方って奴だよ。あいつ、結構遊んでるって有名だし、あんまりいい噂聞かないよ」



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