冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
そこで、ライラの頭にある可能性が閃く。

「私たちの仲、誰かに疑われてる?」

 もしくは疑われそうな真似はやめろという警告か。

 カモフラージュの結婚だというのを誰かに悟られるわけにはいかない。顔面蒼白のライラの予想をスヴェンは一蹴した。

「そういう話じゃない」

 なら、と続けようとするライラの額にスヴェンは素早く自分のを重ねる。息遣いを感じるほどにふたりの距離は近くなった。

「ただ夫としては面白くないだけだ」

 からかっているのか、真面目なのか。その考えに至るほどの余裕もない。投げかけられた言葉が引き金となってライラの体中に動揺が走る。

「う、うん。ごめん。頑張って奥さんらしく振る舞うね」

 返答としてはこれでいいのか。たどたどしく答えるライラにスヴェンはなにも言わない。

 代わりに彼女の頬に触れ、驚きとくすぐったさにライラは目を閉じる。するとすぐさま瞼に口づけられる。

 目を開けると、スヴェンの顔を確認する間もなくライラは再び腕の中に閉じ込められた。心臓が収縮を繰り返し、しばらく収まりそうもない。

 けれど密着した相手の胸から規則正しい心音が聞こえてきてライラの緊張を解いていく。すると次にやってくるのは睡魔だ。

 スヴェンは先に寝ずに起きておけばいいと言ったが、どうやらそれは難しそうだ。今日もこの後、彼がどうするのかライラは確認できないらしい。

 安心する温もりに思い切って背中に腕を伸ばそうとする。けれどすんでのところでやめた。

 自分がこうすることで彼に役に立てるならそれでいい。ただ、自分が彼になにかを求めるのはいけない気がした。
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