冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
互いに目配せし、ここは人相のいいルディガーがドアを叩く。出てきたのは使用人であろう初老の女性だった。

  目つきが悪いのは元々か、老眼だからか。白髪交じりの髪をまとめ上げ、年季が入ったメイド服を着ている。
 
「こんばんは。夜分に申し訳ないが、メーヴェルクライス卿はご在宅かな?」

「アルノー夜警団っ」

 笑顔のルディガーに対し、女性は小さく悲鳴にも似た叫び声をあげた。服装で客人の正体はすぐに理解できたようだ。

 さらにその反応から彼らが主人を訪れた理由も大方予想がついているらしい。

 女性は慌ててドアを閉め、屋敷の中で『旦那さまー』と主人を大声で呼んでいる。ルディガーの指示で念のためセシリアは裏口へ回ることになった。

 一歩引いたところでスヴェンがなにげなく視線を上へ向ける。今宵はやけに月が大きく、煌々と闇に溶けるものを暴くように明るい。忍ぶには向かない満月だ。

 そのとき彼の視界に人物の輪郭が映る。屋敷の二階部分にある小さな出窓で影が動いた気がした。

 女?

 ほんの一瞬、次に目を凝らしたときには窓には誰の姿もない。夢か、幻か。

 そこで音を立てていなかったドアが重々しく開いたので、スヴェンの意識はそちらに移った。中から顔を出したのはこの館の主メーヴェルクライス卿ファーガン。

 四十代と聞いてはいたが、そうは見えないほど彼は老け込んでいた。薄いというよりも抜け落ちているような印象を与える頭頂部。頬は痩せて血色も悪く、眼窩は大きく窪んでいる。
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