たった7日間で恋人になる方法
『何でよ』
『何でもだ』
『専務からのメールを、拒否設定になんてできるわけないでしょ』
『いや、確かシステム的にはできるはずだ』
『そういう問題じゃなくて…』
『念のために確認するが、まさか個人的に何か誘われてたりしてないよな?』
『個人的?…そういえば、美味しいメキシコ料理知ってるから、今度食べに行こうとかは言われてるけど…でもあれ、拓真君も一緒でしょ』
『…あの好色専務』

拓真君は、怒りをあらわにして、拳を握りしめる。

そう心配しなくとも、専務が私にちょっかいを出すとかありえないのに。

『杉崎専務だって心配してるんだよ、拓真君のこと』
『いや違う…あの人は俺がある程度”遊び”が無いと、自分が遊べないのが困るだけだ』
『それはわからないけど…でも専務、自分のせいで私と拓真君がなかなか会えないのだろうから、すまないって謝ってたよ』

確かに、この2ヶ月の間、拓真君は毎日残業続きな上に、土日もフルに出勤していて、まともにデートらしいデートもできていないのも事実。

こうして、業務の合間にコッソリ書庫で会うのが、今の私達には唯一の時間と言っても過言ではない。

『一応あの人にも、悪いという自覚はあるんだ』
『専務だって、ここに来るのは、快く送り出してくれてるんでしょう?』
『ああ…そこは、気持ち悪いくらいに、ゆっくりしてこいって言われてるけどな』
『ほらね……クシュン』

不意に、小さくくしゃみをすれば、隣に並んで立っていた拓真君に抱き寄せられ、腕の中にスッポリと収められる。

11月も半ばになり、制服の上にカーディガンを着てきたけれど、この時間の地下書庫はかなり冷える。

『寒いか?』
『ふふ…温かい』
『…ここでのこうして会うのも、そろそろ難しくなるな』
『もうすぐ12月…だもんね』

今はもう、こうして抱きしめられることも抵抗なくできて、むしろ一緒にいるのに、触れずにいることがもどかしくなるほど。

2カ月前からは想像もできないほど、拓真君のそばにいることが”自然”になってる。

『…萌、一つ提案があるんあるんだが…』

頭上で拓真君がポツリと呟く。

『この際、俺達のこと、そろそろ周りに公言しても…』
『ダメ!それは絶対』

拓真君の腕から身を起こし、そこは断固拒否すると、訝し気な顔をされる。

『別に問題ないだろ、社内恋愛が禁止されてるわけじゃあるまいし』
『拓真君、自分の立場わかってるの?今や”専務秘書の如月拓真”って言ったら、我が社では知らない人いないんだから』
『それ、関係あるのか?』
『大ありよ』
『こう言っては何だが、近づいてくる女性に恋人の存在は明かしているが、信じてない人が多くて困ってる。萌の存在を明かせば、女性避けにもなると思うんだが…』
『拓真君、それむしろ逆効果だから』
『逆効果?』
『そんなこと公表したら、きっと”この程度なら私でも”って、押し寄せちゃうよ』
『ハハハ…そんなわけないだろ』
『拓真君って、モテるくせに、女性の心理がわかってない』

『君に諭されるとはね』と、可笑しそうに笑う。
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