幸せの種
受験当日の朝、恒例の激励会とお見送りをしてもらって、学園の受験生はそれぞれの志望校へと向かう。
私は穂香先生に送られることになった。
二人きりの車内で、穂香先生からの励ましの言葉と一緒に、お守りをもらった。
「ちーちゃんにだけ特別ね。これは『うさぎのしっぽ』って言うらしいんだけど、結構効き目のあるラッキーアイテムなんだって」
「ふわふわしていて可愛い……先生、ありがとう! 私、特別って大好きなの!」
「どういたしまして。ふふふ。ちーちゃんは今でも『特別』が好きなのね」
「うん。だって、私のことをちゃんと見てくれてるっていう証拠だから」
普段、ずっと『空気』でいようとしていたけれど、本当は私のことを見て欲しいっていう気もちもあった。
私だけのためにその人が使ってくれる時間、労力、お金、気もち。
小さい頃、どれだけ求めても、叶えられなかったことの方が多かった。
だから私は今でも『特別』っていう言葉が大好きだった。
穂香先生は、それをずっと覚えていてくれて、二人きりでいられる特別な時に言葉や態度で表してくれる。