幸せの種
児童相談所の車に乗ったとき、おそらくこのまま家に帰れると期待したのだろう。
その期待が裏切られ、またここへ連れて来られて、しばらく家に帰れないと気付いたのだ。
目の前で号泣する千花。
何度経験しても慣れないその光景を直視するのが辛くて、陽平は下を向いた。
「藤島さん、千花ちゃんが来ました。お部屋の案内と今日はお風呂の日なので、入浴介助をお願いします」
陽平は穂香を呼ぶため、千花と手を繋いで職員室へ戻った。
まだ自分のサンダルがない千花は、スリッパをぱたぱたと鳴らしながら、陽平としっかり手を繋いで周りをきょろきょろと窺っている。
穂香の机は、猫グッズがいっぱい飾ってあった。
最初、千花は穂香より猫グッズに興味があるようで、もふもふの猫をかたどったティッシュカバーに釘付けだった。
穂香は自分に視線を向けてもらえるよう、大きめの声を出し、とびっきりの笑顔で千花に話しかけた。
「あなたがちーちゃん! 可愛いな~。私は藤島穂香です。みんなは『ほのか先生』って呼んでくれます。よろしくお願いします」