枯れる事を知らない夢
第1章 傷者
私の名前は半地 美華(はんじ みか)17歳の高校二年生。昔大好きなお兄ちゃんが言ってた。

「どれだけ友達や大事な人を傷付けようが自分に嘘つくような事はするな。それは自分自身を否定してるのと一緒だからな?美華には嘘つくような人間だけにはなって欲しくないから」

お兄ちゃんはそんな事を私に告げて2年前にこの世を去った。ガンだった。21という若さだった。当時まだ私は15歳の中学三年生だった。お兄ちゃんとは6つ離れていたから凄く可愛がってくれてた。お友達にも可愛い妹だろって自慢するくらいのブラコンだった。私もそんなお兄ちゃんが大好きだった。

半地 南斗(はんじ みなと)生きていれば今年23歳の私のお兄ちゃんだ。一年前にはガンが見つかり入院生活を送っていて凄く元気だったけど少しづつ病弱していくお兄ちゃんを見ているのは私にはすごく辛かった。お兄ちゃんはいつも私に笑顔を向けてくれてたけど静かに眠りにつく時には私に笑顔は決してなかった。

お兄ちゃんの最後はいつもの輝いてる笑顔ではなく静寂な綺麗な顔だった。お兄ちゃんには付き合ってる人もいて婚約前提の人だったらしく最期までお兄ちゃんの側で支えていた。涙一つ見せない強い女性だった。その人は私のことを本当の妹のように可愛がってくれていた。私も本当の姉のように懐いていた。

お兄ちゃんが亡くなってから何度か家に顔を出してくれていたけど私はお兄ちゃんがいなくなったショックで顔を合わせる事が出来なかった。あれから高校に入学したけれどもお兄ちゃんがいなくなってから一切笑わなくなった私を"暗い""地味""感じ悪い"などと色々な噂を流されていてクラス学年から嫌われていた。

確かにボサボサな髪に度の合わない黒縁眼鏡で制服だってスカート膝下まででthe地味子だ。それに度が合わないメガネだから人を見ると睨むように眉間に皺を寄せるらしく周りからは怖がられている。私に近寄る人なんて一人もいない。私を見てくれるって言ったら両親とお兄ちゃんの彼女さんくらいだろうか…。

私のせいでお母さん達は近所の人からも気味がられてるらしく申し訳なく思う。それでもお兄ちゃんがいなくなった私にはどうすることも出来ない。人一倍お兄ちゃん子だったから。


ガラッ

シーン…

「…」

「今日も来たんだあいつ」

「いい加減辞めろよな」

「あいつがいると教室が臭くなる」

もう何度目だろうかそんな台詞を投げ飛ばされたのは。少し慣れたものだ。みんな私の何も知らないからそんな事をいうんだ。周りにどう思われ言われようが自分だけがわかっていれば私は全然かまわない。自分でそれを望んだんだから。

陰でコソコソ笑う女子。面と向かって言えない可哀想な奴らだ。文句があるなら直接言えばいいのにな。ま、私に寄ることすら嫌なだけなんだろうけど。だから陰でコソコソする。私ってそんなに臭いのかな?お風呂毎日ちゃんと入ってるんだけどな…。
あ、見た目が汚いから臭いって感じちゃうのかもしれない。それならもうどうする事も出来ない。だってこれが私だから。

キーンコーンカーンコーン🎶

「はーい。席につけ出席とるぞ」

今日から二学期だ。担任の先生がみんなの名前を呼びはじめる。でも、先生は私の名前だけを呼ばない。先生も私をいない存在として認識していた。私だけ飛ばされて名前を呼ぶとみんなそれを見てコソコソ笑っている。これも慣れたものだ。気にしなくなった。逆に呼ばれて返事をするのも面倒だ。だってみんな私の声を聞いたことがないからだ。だからこそみんないっそう不気味がる。人間じゃないんじゃないかって

いつもと変わらずに先生は私を無視して教室を出ていく。私は気にせず1時間目を準備する。

「…。」

最悪だ。ロッカーに入れといた科学のノートと教科書がギザギザに刻まれていた。これじゃ勉強出来ないじゃないか。これだって一応お金かけて買ってるんだから勘弁して欲しい。べつに今に始まった事じゃないけどさ。お母さんにどう説明して新しく買って貰うか悩みどころだ。
今日はそれで1日が終わりそうだな。

私はルーズリーフだけを持ち席につく。
私の教科書とかをやったヤツらだろうコソコソとこっちを見て笑っている。そりゃみんなはもう教科書とか机の上に準備しているのに私だけルーズリーフだけだから。

「何か科学の先生変わるらしいよ」

「あ、聞いた聞いた!」

「私朝職員室に行ったんだけどめっちゃイケメンがいたの!たぶんその人だよ!」

「マジで!?イケメンとか私科学頑張ろう」

興味が無い。女子というものは何故イケメンに目がないのだろうか。ちょっと恵まれて育っただけの生物ではないか。てか、科学頑張ろうとか舐めてんのか。あんたらのせいで私は勉強もできないんですよ。私は後ろの席の机で伏せながら寝てる男子の教科書を見つめていると男子が私の視線に気付いてびっくりして飛び起きる

「み、見てんじゃねーよお化け」

クスクスっ…(笑)

流石にお化けは酷くないですか?確かに見た目からしたらそうなのかもしれないけど例え私が本当にお化けならあんたが見えないような死後霊になるはよ。そんな事を思っていると科学の先生が入ってきた。担任の先生と一緒に。

「みんな静かに〜。今日から清水先生に変わって代理で来て頂いた小山先生だ」

「小山 雅(こやま みやび)と言います。よろしくお願いします」

キャーっ…

女子の黄声が教室に響く私の頭の中にキーンと鳴り響く鐘がなるかのように。私は断固興味がない。どうせこの先生も一緒なんだからみんなと。私は絶対に関わらない。担任の先生が教室を出ていき授業が開始するも女子が…

「小山先生はいくつですか?」

「今年で23になりました」

「「「「「若いぃ〜!!」」」」」

「先生彼女いますかー?」

「悲しい事にいない…」

「「「「私が彼女になってあげる!」」」」

女子って本当にイケメンが好きだな。初対面に彼女ってどーゆ思考してんのか。男子は呆れた顔をしながら聞いていた。べつにこのクラスの男子は顔は特別悪い訳ではないけどきっと小山先生が整い過ぎているのだろう。でも、なんだろう…小山 雅って何処かで聞いた事があるような気がするな…気のせいかな。

「早速だが忘れ物をした人は素直に」

どうせ言っても無視だろうから私言わずにいると私の前に影が出来る。私のびっくりして顔を上げると小山先生が目の前にいた。騒がしかった教室が静まる。そりゃそうだよ。私なんかの前に先生がいるんだから。

「教科書とワークは?」

「…っ」

「聞こえなかったか?教科書とワークは?」

「…」

「忘れたんだろう?」

「先生そんな奴相手にするだけ無駄だぜ」

「そうそう。そいつ喋んねーから」

先生は"そうなのか?"と言いながら疑問にしながら教壇に戻って言った。私は驚きで心臓がバクバクだ。まさか先生が私に話しかけるとは思っていなかったから。みんな私を無視し続けるのにも関わず小山先生だけは私を見た。

「えーと…君は半地美華…半地?」

「…。」

「先生どうしたのー?」

「あ、いや、授業始めるぞー」

時間はあっという間に過ぎて放課後になりみんなが帰り始めていた。私も帰ろうとしたけど家庭科室に裁縫道具を忘れたので取りに向かっていると渡り廊下に出た所で担任と小山先生がいて話していて咄嗟に角の廊下に隠れる。丁度会話が聞こえる所だった。

「みんな彼女を嫌う理由とは?」

「あの子は入学当時から不気味でね。俺も今年担任を持つとなった時は少し抵抗あったよ。」

「どーゆことですか?」

「去年彼女のクラスの副担をしていた人が一人だけ彼女を庇っていたんだよ。だが、周りの生徒から断絶嫌われていた彼女だから副担の先生は生徒から叩かれて精神的に参って辞めたよ」

「そうなんですか…災難ですね」

私の話をしている事はすぐにわかった。これで小山先生は私のことを知ったから明日からは無視し続けるだろう。私は家庭科室に向かわずに教室に戻り鞄を持ちそのまま学校を飛び出して家に帰る。ずっと頭の中にリピートされるさっきの台詞が…"災難です"小山先生もきっと私を気味悪いと思っただろう。

確かに去年…ただ一人だけ私の味方をしてくれる優しい女の副担の先生がいた。名前は田中先生だ。まだ25歳と若い先生だった。優しいから生徒からも信頼される先生だった私を庇ってから先生を信頼していた生徒は先生を叩くようになっていった。私は一度先生に関わらない方がいいと告げたけど田中先生は構わずに私をただ優しく庇ってくれていた。それで段々生徒からの叩きは酷くなり気付けば先生は学校を辞めていた。先生は自分の身を守る為に私を捨てたんだ。結局は私を救ってくれる人なんてあの学校にはいないんだ。

田中先生が私の側にいてくれた時は少なからず救われていたのは確かだ。でも。それもたかが数ヶ月だけだ。田中先生がいるから学校に行く事を少し楽しみにしていたけれども田中先生も私を置いていった。だから私は二度と先生を信用しないことを誓ったんだ。口だけの教師なんてこの世の中には沢山いるけれども田中先生だけはって期待していた自分がいたんだ。
それも呆気なく散っていた。

「ただいま」

「美華おかえりなさい」

「美華ちゃんおかえりなさい」

「静香さん…」

「美華ちゃん久しぶりだね元気だった?」

中山 静香(なかやま しずか)さん。お兄ちゃんの彼女さんだ。私を本当の妹のように可愛がってくれる人だ。私がこんな状況であっても可愛がってくれる本当に優しい人だ。

お兄ちゃんが亡くなってからもう二年が経つけど相変わらずお兄ちゃんだけを愛している本当に強いはひとだと思う。私も静香さんみたいに強い人間ならばきっといまこんな人生は送っていなかったんだろうな…。羨ましい。静香さん綺麗だからほかの男が黙ってないはずなのに静香さんはお兄ちゃんに一途だ。


「最近学校はどう?」

「…。」

「相変わらずみたいだね」

静香さんは私の学校での状態を知っている人だ。前に私の相談に乗ってくれたいい人だ。お兄ちゃんが最期まで愛した人だもん。そりゃいい人だよね。私も懐くくらいの人だから。

「静香さんに聞きたい事があります」

「ん?なに?」

「小山 雅って知ってますか?」

「え?雅くん?」

「知ってるんですか?」

「知ってるもなにも南斗と私と小学生の頃からの仲だからね!美華ちゃんも昔会ったことあるはずだよ?美華ちゃんが小学生の頃かな?」

なるほど…だから何処かで聞いた事がある名前だったんだね。違和感があったのもそれか。でも昔と今じゃ私は変わりすぎてるから小山先生はきっと気付いてないんだろうな。まさか私の学校の先生になるなんて。

「私の学校の科学の先生なんです」

「えー!?雅くんが?あ、でも、雅くん昔から教師になるのが夢だったからね。似合わよね」

確かにあの容姿なら芸能界でも通じるのになんでわざわざ学校の先生になんかなったんだろう。そんなに教師になりたい理由でもあったのだろうか?だとしても私には関係のないことだ。でも、お兄ちゃんと静香さんの友達ならちょっと最悪かもしれない。私のことを知ってしまったんだから明日からきっと地獄だ。

「でも、雅くんが美華ちゃんの学校にいるなら少しあん安心かもしれないね」

「どうしてですか?」

「雅くんも南斗と似てるから素直で他人を差別するのが嫌いな人なんだよ。だから美華ちゃんも雅くんに頼っていいと思うよ」

頼る…私があの人に?お兄ちゃんと静香さんの友達だとしても全く知らない人を頼るなんて私には恐怖でしかない。そんなこと私には出来ない。私はべつに一人でも構わないから学校ではとりあえず一人にして欲しいんだ。私が顔を伏せていると静香さんが私の頭を優しく撫でる。
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