大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「私にとって、100人の命より大王ひとりの命の
方が大切です。」

父を突然亡くした時の悲しみが胸に蘇る。

「アヤ。
その100人の陰に、アヤと同じように思って
いる家族が100人以上いるのだ。
機を織るのがお前の仕事なら、国を治めるのが
俺の仕事だ。
大丈夫。
俺は必ず帰ってくる。
アヤを残して逝けるわけがない。」

「大王………」

頬を伝う涙を大王の大きな手が拭ってくれる。

「泣くな、アヤ。
俺は、アヤを笑顔にすると誓ったんだ。
アヤに泣かれると辛い。」

「無理です。
こんな時に笑えません。」

「吉備は鉄の産地だ。
アヤへの土産に鉄の針を求めてこよう。」

「針より大王です。
大王さえご無事なら、他には何も
いりません。」

大王は、私を抱き寄せた。
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