目を閉じたら、別れてください。
プロローグ
「今日で、本当に会うのを止めましょう」

別れ話は車の中でした。

デートをして送ってもらった車の中。
全然盛り上がらない会話。
海に、ビルのイルミネーション浮かんで揺れて光り輝いている。そんなロマンチックな夜景が見えるお洒落なレストランで、私が食べたいと以前言っていたケーキを頼んでいてくれていた。私の名前に因んだ桃のチーズタルト。
けれど周りのカップルが幸せそうな会話をする中、私たちだけは無言でケーキにフォークを刺していたっけ。

彼を選んだ理由。
無口で寡黙で、お堅い銀行員だってこと。
真面目そうで誠実そうで、浮気なんてしなさそうってこと。
たった三回のデートの後に指輪を買いに行ってプロポーズされたこと。

お見合い相手なので、そんなものだろう。


けれど、もうこの人と一緒に居られない。

「指輪はお返しします。結納前で良かったよね」

車の中で、彼に箱ごと返す。
何も言わないし受け取ろうとしない彼に、一度ため息を吐いて足の上に置く。

「俺は、――まだ桃花が好きだよ」
「――っ」

無口なくせに、零れる言葉からは愛情が感じられる。
けれど今は、それが辛い。
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