目を閉じたら、別れてください。
自分の部署に戻ると、雑誌を見ながら窓辺にたたずむ斎藤さんを見つけた。

40歳間近というのに、渋い色気と無口で仕事に厳しいくせにプライベートではおっとりした人格者。
この人は何年仲良くさせてもらっても、いまいち掴みどころが分からない。



「斎藤専務、自分を探していたときいたのですが」
「ああ。社内メールでもよかったんだけど、多忙な君を捕まえた方がいいかなって」

雑誌とUSBを渡された。
先日のインタビューの文章の構成チェックらしい。
読んでいたのは今月号のようだ。

「別に載せたら悪いことは答えてないから、斎藤専務がチェックして問題ないならいいですけど」
「まあ、いいからチェックしなさい。それを見守る間、私が休憩できるだろ」

窓辺で再び雑誌を読みだした。
うちの部署はいまは忙しいのでほぼ出払っているせいで体よくサボる場所に使うようだ。

ずる賢いところもあるしこの人はきっと目の上のたん瘤だ。
神山商事といえば、古臭い世襲制の会社で幹部なんてほぼ親戚筋。
その親戚たちを押しのけて、専務にまで就任。絶対に媚びず、派閥に所属せずのらりくらりとして、同じく親戚筋ではない社員が、その悪しき風習に嫌悪していたらしく専務側についた。

おかげで俺が大学生のころには二つに分かれていたと思う。

「……式の準備は、順調?」
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